注意。
花水、阿泉前提です。
阿部が腐男子です。
阿部は花水同人誌を描いています。
腐男子TAKAYA、TAKAYAメンテナンスという言葉が解らない方は、本家「TAKAYA同盟」をご覧になってからこちらをお読み下さい。
夏大初戦を終えた翌日、厳しい試合を一人で投げきったエースは欠席だった。
その日の昼、オレと阿部と泉、そして田島は球技大会を抜け出して、それぞれに違う目的を持って三橋の家へと向かっていた。
先頭を行くのは田島で、少し離れてその後ろを歩くオレたち……その中で、あからさまに不機嫌な表情で黙々と歩いているのは阿部だった。
「……おい、阿部」
「………。」
「なあ、」
「………。」
「阿部、聞こえてんだろ」
「………。」
「花井、ほっとけよ」
オレの呼びかけを徹底的に無視する阿部、その様子を見て呆れ返った様子で声をかけてきたのは泉だった。
「相手するだけ無駄だぜ」
「……ああ、」
泉の言葉に曖昧に返事をしてちらりと阿部の様子を窺えば、阿部は相変わらずむすっとした表情のままだった。
阿部の不機嫌の原因はオレにある……のかもしれない。とてつもなく理不尽な理由だけれど。
オレと阿部が三橋の家に行こうかという相談をしていたとき、その場に水谷はいなかった。
出かける直前に、それじゃあ行ってくると水谷に伝えたとき、「一緒についてく」と水谷は言って聞かなかった。
そこでオレが「病人の家に大勢で行くのは止めた方がいいから」と、水谷を半ば無理やり学校に残してきたのがそもそもの発端だ。
オレが行くなら当然水谷もついてくるだろう、と思っていたらしい阿部は、水谷が一緒に行かないと聞いた途端に不機嫌になってしまった。
……どうせ、次の新刊のネタ探しでもするつもりだったのだろう。
ったく、あんな厳しい試合の翌日にそんなことする気になるなんて、ある意味尊敬する。
だけどさすがに、これはちょっとナイんじゃないだろうか。
泉がよく阿部に対して「公私混同するな」と言っているけれど、これこそまさに公私混同だろう。
ここは……オレがキャプテンとして、びしっと言っておかないと……!
「おい阿部、いい加減にしろよ」
「あァ?」
ぎろり、とこちらを睨み上げる阿部の視線に、思わずたじろいでしまう。
野球か同人か、どちらか絡んだときの阿部は本当に手がつけられない。
こうなるともう……お手上げだ。
触らぬ神に祟りなし。放っておくほかない。
そうやって、オレが諦めたときだった。
「阿部、」
突然、オレと阿部の間に泉が割って入って来る。
泉はオレの方を、まるで「お前はもう黙ってろ」とでも言うようにちらりと見やってから、口を開いた。
「公私混同するなっつってんだろ、ガキじゃねェんだから」
「うるせェよ」
「立場悪くなると逆ギレかよ。サイテーだな」
隣で聞いていてもハラハラしてしまう、阿部と泉のやり取り。
泉のキッツイ言葉に阿部はキッと泉を睨みつけたが……その目には、さっきオレに向けていた程の反発心は見られない。
むしろどっちかっつーと、我侭言ってる子どもみたいっつーか、泉の機嫌を窺ってるっぽいっつーか、そんな感じで。
これが泉と阿部の関係性のなせる技なのか、それとも「オレはもう慣れたぜ」と豪語するほどの、泉流の阿部操縦術なのか。
「………。」
再びむすっと黙り込んでしまった阿部、だけど今度はどこかバツの悪そうな表情をしているように見えるのはオレの気のせいか。
「ったく……」
そんな往生際の悪い阿部に対し、泉は溜息をつくと、その耳元に口を寄せてぼそぼそと何かを囁いた。
すると。
阿部の顔がみるみるうちに真っ青になっていき、かちんとその場に硬直してしまって。
そして凍りついていた阿部の表情がぴくぴくと動き、引き攣った笑顔を浮かべてこう言った。
「……ま、どれだけ厳しい状況でも、妄想で全て補完できてこその腐男子だからな!」
震える声でそう言った阿部は、相変わらず真っ青な顔、引き攣った笑顔のまま、田島の後を追いかけるようにすたすたと足早に歩いていく。
何があったのかはわからないけれど、とにかく阿部はこの状況に納得?したらしい。
阿部をここまで操るなんてスゲー、マジスゲー、と一種の尊敬の眼差しを泉に向けつつ、オレは止まっていた歩みをまた進めた。
え?泉がなんて言ったかって?
後日水谷経由で伝え聞いた話によると、「あんま我侭言うと、明日からアシスタント行かねェからな」だったらしい。
……まったく。
オレはいつまで経っても慣れねェよ、こんな状況……。